火付盗賊改「鬼の平蔵」こと、長谷川平蔵宣以(のぶため)という実在の人物を題材とする
池波正太郎代表作の一つ「鬼平犯科帖」。
本所・深川という典型的な江戸の下町を舞台の中心として展開する物語は、著者自身が浅草寺の裏、
墨田川西岸に佇み下町庶民の信仰の場であった待乳山聖天付近に生まれたこともあって、物語自体は
フィクションとは言え、江戸の街の様子を味わうには最高の小説です。中でも江戸の町や地理、
そして食についての描写は豊富であり、特に食については著者自身が有名な美食家であったことも
理由なのでしょう。
その食の一場面。平蔵の盟友である左馬が、吉原にでも行こうと平蔵たちを誘うこの場面に
鯊が出てきます。

「ふ、ふふ……」

平蔵は、あぶらののった沙魚を、生醤油と酒で鹹めにさっと煮つけたのを口に入れます。

長谷川平蔵が火付盗賊改役に任じられたのは天明7年(1787年)から寛政7年(1795年)に
50歳で没するまでの期間です。天明年間と言えば、正に釣りが江戸庶民にまで本格的に普及
しだしたころ、そしてあの初代泰地屋東作開店が天明8年(1788年)なのです。
小説のたった3行だけだれども、そんな時代背景を踏まえながら読むと、何かもう、たまらなく
なります。
そして、いつしかその「鯊の煮付け」を味わってみたくなったのであります。「煮付け」と
いうからには、平蔵のように「ふ、ふふ……」と息を吹きかけ、その白身をホクホクと頬張りたい。

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材料:鯊 6尾
   酒:100cc、醤油大さじ5杯、砂糖大さじ2杯

長谷川平蔵は酒と醤油だけで鹹めに煮ていますが、これは砂糖が高級品であった事も理由でしょう。
明治になっても砂糖の価格は米の七倍ほどしたと言うから頷けます。私は少々甘みが欲しい。
これで「さっと」煮つけます。

「さっと」というのが味噌なのでしょうね。


   

鯊の煮つけ

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